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領土問題でエッセー発表

領土問題でエッセー発表

領土問題を巡って日本と周辺国の対立が激化し、その影響は経済、スポーツ、文化といった分野にまで及んでいる。これまで政界関係者以外の著名人が領土問題について態度を明確にすることはほとんどなかったが、作家の村上春樹氏(63歳)が全国紙にエッセーを寄稿し、論戦に加わった。

村上氏のエッセーは朝日新聞9月28日付朝刊の1面トップで紹介され、3面にエッセー全文が掲載された。村上氏はこの中で、領土紛争の激化が文化に影響を与えている可能性があることに懸念を表明、領土問題に熱狂的な反応を示すことは「安酒の酔いに似ている」とした。

村上氏は多くの人の努力によって日本と近隣アジア諸国との間で文化交流や相互理解が深まってきたことを指摘した上で、「今回の尖閣諸島問題や、あるいは竹島問題が、そのような地道な達成を大きく破壊してしまうことを、一人のアジアの作家として、また一人の日本人として、僕は恐れる」と書いている。

尖閣諸島と竹島の領有権問題を巡る対立がきっかけとなり、日中、日韓関係が緊張している。尖閣諸島は日本が実効支配しているが、中国と台湾も領有権を主張、中国では釣魚島と呼ぶ。竹島は韓国では独島、第三国からはリアンクール岩礁と呼ばれている。

中国の書店から日本人著者による書籍が撤去され、村上氏は「少なからぬショックを感じている」という。この出来事は日中間の領土問題が広範囲にわたって影響を及ぼしていることを示しており、時間をかけて築かれたアジア地域の文化的なきずなが損なわれる恐れがある。

村上氏は中国で日本人著者の書籍の販売が停止されたことは「あくまで中国国内の問題」で、自分は意見を述べる立場にないとした上で、このように述べている。「僕に今ここではっきり言えるのは、そのような中国側の行動に対して、どうか報復的行動をとらないでいただきたいということだけだ。もしそんなことをすれば、それは我々の問題となって、我々自身に跳ね返ってくるだろう」

村上氏はさらに、国境線がある以上、「残念ながら(というべきだろう)領土問題は避けて通れないイシューである」と指摘した。しかし、具体的な解決法を探る可能性が怒りの感情に取って代わられてしまった。


「それは安酒の酔いに似ている。安酒はほんの数杯で人を酔っ払わせ、頭に血を上らせる。人々の声は大きくなり、その行動は粗暴になる」と村上氏は書く。「しかし、賑やかに騒いだあと、夜が明けてみれば、あとに残るのはいやな頭痛だけだ」。村上氏は騒ぎを煽る政治家などに対して、一般の人々は注意深くならなくてはならないと述べた。

日本は領土問題の他にも反原発運動という政治的テーマを抱えているが、反原発運動はノーベル賞受賞者の大江健三郎氏などの著名人が支持している。一方で、領土紛争に触れる著名人はこれまでほとんどいなかった。本質的に国家の威信に関わる問題であるため、領土問題を取り上げる人はいなかった。村上氏のエッセーが全国紙に掲載されたことは、右翼的な国家主義者が独占していた議論を一般の読者に開放する大きなきっかけとなった。

村上氏はエッセーの中で、自らの小説「ねじまき鳥クロニクル」で、日本軍とモンゴル・ソ連軍が満州とモンゴルの国境地帯で激しい戦闘を行った「ノモンハン戦争」を取り上げたことに触れ、小説執筆後に現地を訪れたときの心境を語った。

「薬莢や遺品がいまだに散らばる茫漠たる荒野の真ん中に立ち、『どうしてこんな何もない不毛な一片の土地を巡って、人々が意味もなく殺し合わなくてはならなかったのか?』と、激しい無力感に襲われたものだった」

村上氏は過去にも、議論の分かれるテーマについて発言している。村上氏は昨年6月にバルセロナで行った国際賞の受賞スピーチで、福島第1原発の原発事故は日本人自身が引き起こしたものだと示唆した。村上氏は小説の中で、日本による戦時中の行為を取り上げることを避けることもしない。「ねじまき鳥クロニクル」には、第2次世界大戦中に日本が満州を占領した時代の場面が含まれている。

折しも、今年のノーベル文学賞の発表が近づいており、村上氏は今年もまた、有力候補として名前が挙がっている。英国のブックメーカー、ラドブロークスはノーベル文学賞受賞者の予想で、村上氏のオッズをトップの5倍としている。

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