「羊をめぐる冒険」の音楽
羊をめぐる冒険
出版社:講談社文庫
単行本発売日:1982/10
文庫:上268ページ 下257ページ
(上)P.106
「何か音楽でもおかけしましょうか?」と運転手が言った。
「なるべく眠そうなのがいいな」と僕は言った。
「かしこまりました」
運転手は座席の下から手さぐりでカセット・テープを選び出し、ダッシュボードのスイッチを押した。どこかで巧妙に隠されたスピーカーから無伴奏チェロ・ソナタが静かに流れ出した。申しぶんない曲で、申しぶんない音だった。
「何か音楽でもおかけしましょうか?」と運転手が言った。
「なるべく眠そうなのがいいな」と僕は言った。
「かしこまりました」
運転手は座席の下から手さぐりでカセット・テープを選び出し、ダッシュボードのスイッチを押した。どこかで巧妙に隠されたスピーカーから無伴奏チェロ・ソナタが静かに流れ出した。申しぶんない曲で、申しぶんない音だった。
(上)P.210
湯が沸くまでのあいだ彼女は隣りの部屋でカセット・テープを聴いていた。ジョニー・リヴァースが「ミッドナイト・スペシャル」と「ロール・オーヴァー・ベートーヴェン」と続けて唄っていた。それから「シークレット・エージェン・マン」になった。湯が沸くと彼女はコーヒーを淹れながら、テープにあわせて「ジョニー・B・グッド」を唄った。そのあいだ僕はずっと夕刊を読んでいた。とても家庭的な風景だった。羊の問題さえなければ幸せな気分になれたはずだった。
湯が沸くまでのあいだ彼女は隣りの部屋でカセット・テープを聴いていた。ジョニー・リヴァースが「ミッドナイト・スペシャル」と「ロール・オーヴァー・ベートーヴェン」と続けて唄っていた。それから「シークレット・エージェン・マン」になった。湯が沸くと彼女はコーヒーを淹れながら、テープにあわせて「ジョニー・B・グッド」を唄った。そのあいだ僕はずっと夕刊を読んでいた。とても家庭的な風景だった。羊の問題さえなければ幸せな気分になれたはずだった。
(上)P.228
近所の行きつけのスナックに入ってチキン・カツレツとロールパンを注文し、それができあがるまでブラザーズ・ジョンソンの新しいレコードを聴きながらまたビールを飲んだ。ブラザーズ・ジョンソンが終るとレコードはビル・ウィザーズに変り、僕はビル・ウィザーズを聴きながらチキン・カツレツを食べた。それからメイナード・ファーガソンの「スター・ウォーズ」を聴きながらコーヒーを飲んだ。あまり食事をしたような気になれなかった。
近所の行きつけのスナックに入ってチキン・カツレツとロールパンを注文し、それができあがるまでブラザーズ・ジョンソンの新しいレコードを聴きながらまたビールを飲んだ。ブラザーズ・ジョンソンが終るとレコードはビル・ウィザーズに変り、僕はビル・ウィザーズを聴きながらチキン・カツレツを食べた。それからメイナード・ファーガソンの「スター・ウォーズ」を聴きながらコーヒーを飲んだ。あまり食事をしたような気になれなかった。